都史紀要5 区制沿革

緒言

現在の区制と江戸時代の名主別とを直接に比較すると、種々の点において大きな相違があるが、東京の区制の起原に遡って行くと結局名主制に到達し、逆に名主制の成行きを辿っても見ても、区制に入って来る。

名主制が廃止されたのが明治二年で、郡区町村編制法が公布されて、麹町区以下十五区が置かれたのが明治十一年、十五区会の成立が翌十二年である。この間の十年間は、日本全体としても、幕府の封建制度から新政府の中央集権に移行する厳しい改革変化の時期であるが、それに伴って、東京府内の制度にもめまぐるしい改革が行われた。誠に朝令暮改の言葉の通りである。行政区画だけに就いても、長くて三年、短いのは数ケ月で改められている。

旧来の制度を基として、新しい構想を加味して改革は行われたが、改革の結果は、江戸時代の自治機関は、或は府に吸集され、或は改められ、或は機能を奪われた。

この急激な官治化は必ずしも順調ではなかった。三百年来慣れて来た制度を破ったのであるから、形式は整頓しても、その実が副わず、所期の効果を挙げることが出来なかった。頻繁な改革は一面から見ればその結果でもある。また「万機公論ニ決スベシ」というのは新政府当初の方針で、各段階の議会を設ける考は常にあった。その機運がようやく熟して新しい地方自治の萌芽ともいうべきものの現われたのが、明治九年の区町村の総代人の制度で、次いで同十一年の府県会規則、地方税規則、郡区町村編制法のいわゆる三新法の公布となったのである。

また、この時代には、下位の行政区画が町から区に移った。江戸の行政区画としまた自治団体としての、はっきりした性質を備えていたのは、千七百に近い町であった。各町に町役人が書、町内事務所の自身番屋があり、各町毎の町入用が市政の経費の大部分を占めていた。同一名主の支配に属する町々相互の間には特別の関係は無く、名主支配範囲というものは、行政区画的性質が非常に薄弱だったのである。これが順を追って逆になって町は地域的名称に過ぎないものとなったのである。

種々の点から、この時代は重要な興味のある時代で、名主制から今日の区制に至る橋ともいうべき時期であるが、同時に未開発の時期である。この一篇は、この十年間の変化の経過を解明することを主眼とするが、その必要から、先ず江戸時代の名主制の概略から始め、後に郡区町村編制法による区制の要点を加えることとした。

資料はなるべく原文のまま中に織込むこととした。それらの資料自身が中々人の目に触れ難くなって居り、写本で一本しかないようなものは失われる場合も考えられないことではないからである。

昭和三十三年三月
鷹見安二郎

区制沿革 目次

緒言

第1章 江戸の名主制度(1~28)
第1節 江戸の市政と名主の位置(1)
住民の階級と町人(1)
土地の種別と町地(2)
市政の機関(3)
町奉行所(4)
町年寄(5)
町役人(5)
町入用(7)
第2節 名主の起原(8)
第3節 名主の人数と階級(10)
第4節 名主の任免(12)
第5節 名主の職務(15)
第6節 支配範囲(16)
第7節 役料と身分上の待遇(18)
第8節 名主組合と小口年番(20)
第9節 役附名主(25)
第2章 番組・年寄制度(29~64)

第1節 明治維新と江戸状勢の変化(29)
第2節 名主制度の廃止(33)
第3節 諸年寄の新置(37)
中年寄・添年寄(37)
世話掛・世話掛肝煎(38)
地方大年寄・中年寄(40)
武家・寺社触頭(40)
第4節 五十番組と地方五番組(42)
第5節 中年寄・添年寄の任務(48)
事務取扱所(54)
第6節 中年寄・添年寄の給料(54)
第7節 中年寄・添年寄の身分待遇(61)
改革の要点(64)

第3章 大区小区・戸長制度(65~110)
第1節 戸籍法と区画の規定(65)
戸籍法公布の理由(65)
身分別戸籍の廃止(66)
区画の規定(66)
第2節 四十四区朱引外六大区制(67)
朱引の縮小(67)
朱引外六大区二十五小区(69)
朱引内四十四区(71)
朱引内外六十九区(72)
武家寺社触頭の廃止(72)
第3節 府内六大区九十七・四小区制(75)
六大区各大区十六小区(75)
取締組区画との関係(76)
第4節 朱引内六大区朱引外五大区制(83)
府域の拡張と区画の改正(83)
朱引内外の区別(83)
第5節 戸長・副戸長(85)
第6節 邏卒総長・区長と大区御用掛(91)
邏卒総長・区長の区政関与(91)
区長の前身大区御用掛・戸長世話掛(94)
第7節 小区扱所と大区役所(96)
小区扱所(96)
大区役所とその取扱事項(97)
第8節 小区町用掛と区入費(100)
小区町用掛(100)
区入費(101)
第9節 戸長の身分と給料(102)
戸長の身分待遇(102)
戸長の給料額(103)
戸長給料の総額(105)
第10節 学区と学区取締(107)
東京府下の学区(107)
学区取締と区長戸長の学区取締兼務(109)

第4章 区務所と区総代人制(111~135)
第1節 区務所の設置(111)
区務所設置と区長戸長減員(111)
朱引外の区務所設置(114)
第2節 区務心得書(115)
区長の定員・給料と心得(115)
戸長の定員・給料と心得(117)
書記の定員・給料と心得(118)
朱引外区長・戸長・書記の心得(120)
第3節 地方官会議と区会法案(120)
第4節 東京会議所規則と区町村金穀公借共有物取扱土木起功規則(128)
東京会議所規則案(128)
区町村金穀公借共有物取扱土木起功規則公布(131)
第5節 区町村総代人(132)
総代人撰挙方(132)
総代人心得書(134)

第5章 郡区町村編制法と十五区及び区会(137~158)
第1節 郡区町村編制法(137)
第2節 十五区六郡の区画(139)
区画改正案(140)
区画名称決定(141)
第3節 区役所と区長(143)
第4節 区長掌管事務と委任事務(146)
第5節 十五区会(150)
数区聯合会(154)
区町村会法(156)

附記 その後の重要改正(159~163)