浅草公園第六区の模造山と人工滝~web版公文書館の書庫から

本物ではない

模造山と人工滝

上の図の山も滝も本物ではありません。材木で櫓を造り、その上に土砂を置いて樹木を植え、頂上にタンクを設置し、ポンプで水をくみ上げ人工の滝を流すという、いわばハリボテの山と滝です。滝の幅は90センチメートル、高さは15メートル。明治42年(1909)9月7日付で、東京建物株式会社が浅草公園第六区四号地(94、95、124、125番)にその建設方を申請し、同年10月27日に東京市参事会の許可を得たものです。目的は遊覧場営業のためとありますが、「此山へは人物を登山せしめざること」ということですから、下から眺めるだけのものだったようです。江戸時代に滝見茶屋というものがありましたが、その伝統をついだものかもしれません。

構造をもっと具体的にイメージしていただくために、別の図面に書かれた説明書を引用してみましょう(原文はカタカナ交じり文ですが、平仮名交じり文に改め、適宜句読点を付けました)。

一、木造模造山を造り、四季の植物を植へ付け、山峯より幅三尺、高さ五十尺の瀑布を落し、麓に幅八間、奥行五間の泉水を造り、前記瀑布の滝壺となす
一、滝の水を山上「タンク」に送水法方は、瓦斯機関を設置致し、径六吋「ヒウガルポンプ」を以て送水する事
一、木材を以て高さ四拾六尺に組立て、其上に土又は粘土にて作り上げ夫れに時花の草木を植へ付け、堅牢に仕組候事
一、頂上に六尺の水槽を置く

模造山の仕様書

下の図は横断面図ですが、そこに書かれている仕様書を読んでみましょう(原文を平仮名交じりに改め、適宜句読点を付したのは前に同じです)。

横断面図
一、親柱杉末口八寸の丸太、長四拾六尺、三本
一、横木筋違には松四寸角を以て組立ること
一、此山へは人物を登山せしめさること
一、地盤より山上樹木の惣高さは五十六尺以内とす
一、地形は親柱壱本各下は壺堀図面に倣ひ掘り下げ、杭松丸太末口六寸、長二間四本、四角形に打込、間隙に割栗石、目潰し砂利共入れ、入念小棒にて搗堅め、扣石尺五寸角据へ付、各四寸角柱下は壺堀の上割栗石搗き堅め、玉石据へ付け

下の図は頂上平面、平面、横断面図です。

頂上平面、平面、横断面図

ルナパーク

この模造山と人工の滝は翌明治43年(1910)に開業したルナパークという娯楽施設の一つとして建設されたものでした。その出来栄えと評判がなかなかのものであったことは、同年10月29日の読売新聞に「ルナパークの光栄」と題して、次のような記事が掲載されてることからもうかがえます。

二十八日午前十一時国賓載洵殿下の御一行は浅草公園ルナパークへ御臨場、人造瀑布の巧妙なるを御賞讃あり、木馬館より大江山、日蓮記等の菊人形御覧の後、十一時五十分御帰還遊ばさる、猶庭園瀑布の前に於て鈴木ルナ写真館主は御一行の記念御撮影の栄を辱うせり

注)載洵(さいじゅん)殿下とは清国王室の一員。同年10~11月に日本を訪問した。

公園関係書類とは

この資料は、東京市文書のうち「明治42年・土地・公園地・第一種」という冊子に綴じられているものです。東京都公文書館が所蔵する東京市文書には、明治・大正・昭和(18年まで)を通じて公園関係の書類を綴った冊子が約400冊あります。しかし、「公園」というタイトルから普通に連想される、公園の設計や造園、修築などに関する書類は少なく、ほとんどが、東京市の管理する公園地の土地貸付に関する文書によって構成されているのです。

昭和7年(1932)末における公園地土地使用状況をみてみると、東京市が土地の使用許可を与えている公園は、日比谷公園外14公園に上り、使用面積35,575坪余、その使用料年額276,452円余、使用地筆数713筆となっています(東京市市政概要、昭和8年版)。使用面積が一番大きいのは、芝公園の15,698坪余で、以下、上野恩賜公園13,686坪余、下谷公園9,472坪余、浅草公園6,322坪余、緑町公園4,375坪余と続き、この5つの公園で全体の92パーセント余を占めています。

公園地の使用目的としては、茶店や飲食店などがオーソドックスなところですが、芝公園などは住宅地としても利用されていました。明治から大正にかけての政治家で平民宰相として知られる原敬も芝公園内に暮らしていました(原奎一郎『ふだん着の原敬』、1971年、毎日新聞社)。下谷公園(現台東区)と緑町公園(現墨田区)は、明治23年(1890)4月に公園に指定されましたが、実態は市街地と変わるところなく、名は公園ですが、さまざまの業種の人がここで商売をし生活をしていたのです。

浅草公園では、第六区を中心に遊覧場、活動写真館、飲食店等を営業する人が多く、借地した土地の上に建物工作物を新築したり増改築する場合に管理者である東京市へ申請して許可を得る必要があったことから、その書類のなかに、ごく稀にですが、ここに掲げたような図面が添付されていたりするのです。

参考資料
模造山と人工滝の資料が綴じてある冊子
冊子名
明治42年・土地・公園地・第一種・7冊の5
分類番号
603.A2.7
マイクロフィルム番号
リール番号 東京市文書・明治期Ⅰ・明治42年(26)
コマ番号 780-1253