農業センター

平成14年度試験研究成果概要

平成14年度試験研究成果概要

1) 小笠原の気候を活かした有望品種の導入,収集,保存

(1) 食用ホオズキの生育特性の把握

1.優良系統の生育特性の検討

開始年度:

  平成12年度

担当者:

  吉原恵子*(*南多摩農業改良普及センター)

目的:

  小笠原では2~3月に観光客に提供できる農産物が少ない。そこで,この時期に出荷が可能と思われる食用ホオズキの生育特性を把握するとともに,土産品として商品化できるか否かについて検討した。

摘要:

  供試系統は,農業センタ-保有の'T','C','H','D'4系統を用い,1月23日に播種,露地に畝幅70cm,株間50㎝の1条植えで5月10日定植した。[1]各系統ともに4月上旬が収穫のピークを迎え,糖度については2月がピークになった。このことから,小笠原においての食用ホオズキの収穫期は12月中旬~4月下旬であった。[2]'T'は黄色から橙色に着色する割合約42%と最も高く,比較的容易に着色し有望系統であると思われた。[3]試験出荷を行った結果,年末年始や2~3月の観光シーズン中,主に観光客が土産品として食用ホオズキを購入していた。また,店頭に並んでから10日以上日持ちしていたことから,商品性の高い品目であることが明らかとなった。

2.灌水量および施肥量がホオズキの収量に及ぼす影響の検討

開始年度:

  平成12年度

担当者:

  櫻井文隆

目的:

  食用ホオズキが新しい特産物として有望であるが,収穫時においても橙色に色づかず未熟な果実が多い。このため食用ホオズキの栽培技術確立と上物果収量を高めるため,土壌水分及び施肥量と上物果の関係を検討した。

摘要:

  処理区は 'T系統'を用い,灌水開始点pF 2.0:追肥量(窒素成分量)2.5kg/10a(2.0-2.5区),同pF 2.0:追肥量5.0kg/10a(2.0-5.0区),同pF 2.7:追肥量2.5kg/10a(2.7-2.5区),同pF 2.7:追肥量5.0kg/10a(2.7-5.0区)を設けた。8月15日にパイプハウス内に畝幅70cm,株間100cmで定植し,元肥は窒素成分で10kg/10a,追肥は化成肥料で9月27日より1ヶ月ごとに行った。[1]外観評価による上物率は2.0-2.5区が最も高く,ついで2.0-5.0区が高かったが,上物果数は,2.0-5.0区が最も多かった。[2]pF2.7区(追肥2.5kgおよび5.0kg)は,上物果数および上物率が低かった。[3]糖度についても,pF2.7区(追肥2.5kgおよび5.0kg)が,やや低い傾向にあった。[4]以上から,土壌の乾燥と多施肥区において上物収量が低下するため,灌水開始点pF2.0,追肥量5.0kg/10aの処理区の上物収量が最も高く,総合的に優れていた。

(2) パッションフルーツの土産用鉢物化に向けた検討

パッションフルーツの鉢物輸送性の検討

開始年度:

  平成12年度

担当者:

  松本 剛・井川 茂*・菊池正人**(*西多摩農改セ,**営農研修所)

目的:

  土産用商品としてのパッションフルーツの鉢物について,郵便小包及び手荷物による船室への持ち込みによる輸送性を検討した。

摘要:

  6号鉢行灯仕立て6鉢を農業試験場江戸川分場まで,段ボール箱で包み郵便小包により郵送した。[1]郵便小包では,結実していた果実が6鉢ともすべて落果し,さらに葉についても一部が落葉した。小包等で輸送することは不可能であった。[2]手荷物で船室に持ち込み都内まで運搬した場合は,ほとんど変化が現れず問題はなかった。

(3) ホワイトサポテ品種導入と果実特性の把握

有望品種の特性調査

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  吉田滋実

目的:

  小笠原では,秋期に収穫できる魅力的な果樹が少ない。そこで,この時期に収穫できるミカン科の果樹,「ホワイトサポテ」の優良品種を導入し,その特性を調査する。

摘要:

  一般的な品種で食味が良い'クシオ',大果で品質優良な'マクディール',及び多胚性で花粉が多く,花粉樹として利用できる'バーノン'の3品種を選定し,平成14年12月13日に定植した。成長量を調査したところ,主枝の基部から約10cmの位置の太さは,平成14年12月20日から15年3月26日の間にクシオが37%,マクディールが45%,バーノンが15%太くなっていた。

(4) 切り花・切り葉品種の特性調査

シマオオタニワタリの切り葉生産の検討(生育状況の把握と施肥量の検討)

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  松本剛

目的:

  小笠原では切り葉生産を計画している生産者が増えており,小笠原に適した作目を模索中である。小笠原に多くの株の自生が見られるシマオオタニワタリ(Asplenium nidus L.)の定植から収穫開始までの生育状況を把握し,施肥量について検討した。

摘要:

  N,P2O5,K2Oの各成分で,10a当たり0kg (無施用),2.5kg,5kg,10kgの4区設定し, 3ヶ月おきにIB化成で各量を施用した。半日陰にあるパイプハウスに黒60%遮光ネットを張り,2002年2月14日に120cm幅ベッドに40cm×40cmで定植した。[1]生育は10kg/10aが良好であったが,無施用以外の区についても若干劣る程度で,9ヶ月間で最大葉長が50cm以上となった。[2]デコレーションやオブジェとしての切葉長を考慮すると80cm以上が必要となるので,定植から収穫開始まで1年以上必要と考えられる。

(5) 香酸カンキツの果実特性調査

香酸カンキツの果実特性調査

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  原島浩一

目的:

  小笠原では,香酸カンキツとして島レモンの生産が広まっている。しかし,その生育特性が把握されておらず,栽培技術はまだ確立されていない。ここでは,島レモンの果実肥大特性を把握する。

摘要:

  供試樹は6年生を用い,2月上旬開花,3月上旬開花,4月上旬開花の果実について,果実肥大調査(果高・果径)を行った。[1]7月以降,強風などにより2月上旬と3月上旬に開花した果実の多くが落果した。[2]4月上旬開花の果実は,9月上旬に至るまで果高果径とも直線的に増加した。また,果高の増加程度は果径のそれよりもやや大きく,8月下旬には,果高は果径の約1.3倍だった。[4]収穫期は,8月中旬から始まった。

2) 安定した生産技術の開発

(1) パッションフルーツの生産安定技術の開発

仕立て方による収量性の検討

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  原島浩一

目的:

  V字仕立ては,慣行である平棚仕立てよりも収量が増す。ここでは,V字の角度(支線を立ち上げる角度)を変えた場合の収量等について調べる。

摘要:

  処理区は,平棚仕立て,V45°区(V字仕立ての支線の角度が水平から45°),V75°区(V字仕立ての支線角度が75°)を設けた。[1]単位面積当りの収量は,V45°区は平棚区の約1.5倍,V75°区は約1.6倍となった。[2]糖度,酸度ならびに果実重で大きな差はみられなかったが,着色程度と果実重の分布では平棚が大きく,V字仕立ては小さかった。[3]V字仕立ては,枝葉の配置,量の管理がし易く,採光性が向上し養水分の供給が良好に行われたと考えられた。[4]V字仕立てにより,収量増加,果実色促進,果重増大が期待でき,V字の支線の角度を75°に立ち上げることで,さらに収量増加が期待できることが示唆された。

(2) シカクマメの生態特性の解明

1.春播き施設栽培の検討

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  吉原恵子*(*南多摩農業改良普及センター)

目的:

  慣行の作型は,9~10月に頻繁に来襲する台風により生産が不安定となることから施設利用の要望が高まっている。そこで,本試験では台風の被害回避に対する施設栽培の有効性を検討する。

摘要:

  処理区:前年に定植(3月定植)して越年した株を栽培する施設栽培(越年株区),施設栽培(当年株区),露地栽培(対照区)とし,側面に寒冷紗を張ったパイプハウスに,畝幅1.2m 株間1m,1条植えのキュウリネット直立仕立てとした。品種はウリズンを用い,5月25日に定植した。露地栽培は台風来襲のたびに,支柱を引く抜き株を倒伏させて,その上から防風ネットをかけて被害対策を行った。[1]春播き施設栽培は,露地栽培に比べ越年株で8割程度の収量であったが,台風対策の労力が軽減されたることから、実用性の高い栽培方法であること思われた。[2]越年株の収量は,9月まで当年株に比べて高く,施設栽培の生産性を向上させるためには,越年株の利用が有効と思われた。

2.小笠原における周年栽培の検討

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  吉原恵子*(*南多摩農業改良普及センター)

目的:

  これまでシカクマメが店頭に並ぶのは早くても6月であり,また,その生産性は不安定である。このため,特産野菜シカクマメ生産の安定的な周年栽培について検討した。

摘要:

  品種はウリズンを用い,畝幅1.2m 株間1m,2条植え,キュウリネット直立仕立てとし,12月および2月播種の冬播き露地栽培,9月,12月,3月播種の鉄骨ハウス栽培を行った。[1]12月および2月播種の露地栽培は,5月以降の収穫となり収穫開始には差が見られなかったが,8月末までの総収量は,12月播種区が2月播種区に比べて高かった。[2]施設栽培では,9月播種区が開花が11月中に見られ,12月4日から収穫が始まった。[3]12月播種区は,収穫開始が4月7日で5月に収穫のピ-クを迎えた。また,7月以降の収量は激減し,10月に若干収量が増加した。[4]3月播種区は,収穫を6月17日から開始したが,その後開花してもほとんど収穫には至らず,8月末までの収量は低かった。

3.遮光処理および摘花処理がシカクマメの収量変動に及ぼす影響

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  小野 剛

目的:

  遮光による気温低下および摘花処理をし,収量変動格差を少なくさせる。

摘要:

  45%遮光区と対照区(無遮光)を設け,1時間おきに気温を測定し,収穫数で評価した。また,摘花処理区は開花数の半数を摘む処理を行ない,対照区は摘花を行なわなかった。[1]遮光区は無遮光区と比較しても気温低下効果はほとんど無かった。[2]遮光区は,光量不足により生育が著しく劣ったうえ,収量が大幅に少なく,実用的でないことが判明した。[3]摘花処理区の収穫前半は,摘花した分だけ収量が低下した。[4]摘花処理区の収穫最盛期の収量は,対照区とほぼ同数であったが,その後の収穫量の落ち込みも同程度に見られた。このため,遮光および摘花処理による生産量の安定化はできなかった。

(3) 丸莢オクラの生産技術の開発

品種比較と長期栽培方法の検討

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  松本剛・櫻井文隆・小野剛

目的:

  小笠原のオクラ栽培は,丸莢が中心である。導入されている'八丈オクラ','エメラルド'2品種及び市販の'レディー・フィンガー'について収量性や食味を把握した。

摘要:

  播種2002年5月15日,定植7月9日,11月24日まで栽培した。調査は収穫調査(サイズ毎の莢数,収量)及び男女46名に対しての食味試験(茹でて冷やした後に供した)を行った。[1]レディーフィンガーがやや収量が高かったものの,エメラルドとは大差なかった。[2]収穫莢数はレディーフィンガーおよびエメラルドは,八丈オクラに比べて2割ほど多かった。[3]一莢重は八丈オクラが他に比べて2g以上大きかった。[4]品種毎の食味は,八丈オクラが最も有望であり,ついでエメラルド,レディーフィンガーであった。レディーフィンガーの食味評価は,ばらつきが大きかった。[5]収量を重視する場合はエメラルド味では八丈オクラが有望であった。

(4) パパイヤの生産安定技術の開発

パパイヤの斜め仕立て法の検討

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  吉田滋実・原島浩一

目的:

  パパイヤは人気の高い熱帯果樹だが,樹高が高いために強風に弱く,毎年台風被害のある小笠原では生産が困難である。パパイヤの安定生産のため,樹高を低く抑えるような仕立て方を検討する。

摘要:

  平成13年12月にほぼ同じ樹勢のパパイヤ(品種名:サンライズ)の実生苗20株を定植した。このうち5株については,幹が地上に対して約45度の角度になるように誘引し続けた。[1]平成14年10月に樹高を調査したところ,通常の栽培を行った場合には253cmであったのに対し,幹が斜めになるように栽培した株は155cmと低かった。[2]斜めに仕立てた株は,支柱をはずすと自重を支えきれずに折れてしまったり,誘引のストレスで株基が傷付き腐敗したりするものが多く,開花や着果も大幅に遅れた。[3]以上から,今回検討した方法では樹高を低くすることはできるものの,現場での利用には耐えないことがわかった。

(5) ズッキーニの冬期施設栽培技術の確立

雄花確保のための品種比較

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  小野 剛

目的:

  小笠原における冬期施設栽培に適し,雄花数を確保できる品種を検討した。

摘要:

  緑色系6品種,黄色系1品種,計7品種を供試した。8月27日播種,9月17日定植,株間100cm,畝幅120cmとし収穫物の収量,外観(形状,色)および雄花数を比較した。[1]収量,外観ともに緑色系の'ブラックトスカ','サマースカッシュ','モスグリーン'の3品種が優れていた。[2]ブラックトスカは,栽培期間を通じで安定した収量が確保できた。[3]サマースカッシュおよびモスグリーンは収穫初~中期は安定して収穫できたが,収穫後期は果実が短くなる傾向がみられた。[4]雄花数は,黄色品種であるオーラムが最も多かった。また,緑色系3品種は,受粉作業をするには一時的に雄花が確保しにくい時期があった。[5]以上より,冬期施設栽培では、ブラックトスカ。また,雄花確保の品種としては,オーラムが適していた。

3) 亜熱帯気候を活用したブランド農産物の生産技術開発

(1) アンスリウムの生育特性調査及び市場調査

アンスリウムの生産技術開発

開始年度:

  平成10年度

担当者:

  松本 剛

目的:

  アンスリウムは花保ちが良いので,熱帯性の切り花として小笠原から周年出荷する事が可能と思われる。小笠原での開花状況の把握と,施肥方法,用土及び栽培方法について検討した。

摘要:

  [1]'キャンキャン','カーレ'とも1株当たり2ヶ月に1本の開花が見られた。[2]'キャンキャン'の仏炎苞は14cm以上,'カーレ'の仏炎苞は10~15cm程度であった。'キャンキャン'は'カーレ'に比べ仏炎苞の色・艶が良好であった。[3]施肥は化成肥料を少量(燐加安3g/株を3ヶ月に1回程度)施用で十分であった。[4]ヤシ枯れ葉チップはバーク堆肥やピートモスと同等の用土として使えた。[5]植込み資材を入れた枠内での栽培と,ポットでの栽培では差はなかった。ポット栽培は用土の節約や,配置変更ができるなどの点で有利と考えられた。

(2) マンゴーの安定生産技術の開発

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  吉田滋実・原島浩一

目的:

  マンゴーには,多く実が着いた翌年に収量が低下する傾向がある。生産を安定させるため,根域制限栽培の有効性を検討する。

摘要:

  平成10年に防根シートを用いて根域制限を施して定植した株と,慣行法に従い定植した株について,開花及び着果について調査を行った。[1]根域制限区の花芽の発生率は,慣行区の約2倍であった。[2]15株当りの収穫個数はそれぞれ580個と488個であり,果実の糖度は根域制限区の方が高いものが多い傾向が見られた。[3]果実の大きさを沖縄県の出荷基準に照らしたところ,根域制限区では22%の果実が規格外(250g未満)であったのに対し,慣行区では7%であった。一方,商品として見栄えのする350g以上の果実(沖縄県のL以上)は,根域制限区31%,慣行区79%であった。

4) 農業生産環境を改善する技術の開発

(1) 小笠原の土壌診断基準の策定

緩衝曲線法(炭酸カルシウム添加-通気法)を利用した簡易石灰処方法の検討

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  松本剛

目的:

  小笠原では依然として酸性で石灰不足の圃場が多く見られる。普及現場で簡易かつ,圃場毎にCECが異なる小笠原の赤色土でも対応できる方法として,緩衝曲線法(炭酸カルシウム添加-通気法)を利用して簡易に石灰の処方量を求める方法を検討した。

摘要:

  中和石灰量を求めるため,pH,ECが低い農地土壌23点の緩衝曲線作成し,圃場毎の交換性石灰の目標値を求めた。[1]供試土壌pHが5.0程度以下の試料では炭カル25,50mg添加,5.0~5.5程度では10,25,50mg添加,ならびにpH5.5以上では10,25mg添加でpHが6.0~6.5になった。[2]土壌のpH毎に, 2~3段階の炭カル添加量で「炭酸カルシウム添加-通気法」でpHを測定すれば,交換性石灰の目標値把握が可能となった。[3]ECが0.2mS/cm程度以下の土壌においては,pHや交換性石灰の分析の後,土壌pHに応じて炭カルを2~3段階添加してpH測定することで,石灰処方量が求められた。

(2) 潮風害軽減技術に関する試験

塩害耐性のある樹種の成長性及び台風被害の検討

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  吉田滋実・原島浩一

目的:

  小笠原で自生している木本類について,果樹の潮風害を軽減する能力を調べる。

摘要:

  平成13年度の試験において塩害耐性が認められた樹種であるアレカヤシ,イヌマキ,テリハボクについて樹高の推移を調査した。[1]平成14年4月に比べ,10月にはアレカヤシが15%,イヌマキが32%,テリハボクが26%高くなっていた。[2]平成14年11月に接近した台風は風が強く雨の少なかったため,小笠原の植物に甚大な塩害が生じた。この台風により試験区のアレカヤシは葉先が枯れ,テリハボクでは葉に褐変を生じたが,イヌマキはほとんど影響を受けなかった。

(5) 侵入害虫の防除法の確立

紫外線除去フィルムのマメハモグリバエ防除効果とトマトの生育におよぼす影響の把握

開始年度:

  平成12年度

担当者:

  櫻井文隆

目的:

  トマトのパイプハウス栽培では,紫外線カットフィルムで被覆し,サイドに1㎜の防虫ネットを被覆すれば,マメハモグリバエの被害を減少できる。そこで今回は,この防除法におけるトマトの生育及び収量を明らかにし,防除法の確立を図る。

摘要:

  5.4m×7mのパイプハウスのサイドに1㎜目防虫ネットをはった後,天井に紫外線カットPOフィルムを被覆したUVカット区と非紫外線カットPOフィルムを張った対照区を設置した。トマトの供試品種は'桃太郎8'で,10月17日に定植した。[1]黄色粘着シ-トにおけるマメハモグリバエの誘殺は11月15日までは両区ともなかったが,その後は増加した。しかし,UVカット区は,マメハモグリバエの発生数およびトマトの被害は少なかった。[2]トマトの生育は,両区とも収穫段数が10段であったが,節間長は対照区の方がやや長かった。[3]総収量は,UVカット区は対照区の95%であったが,販売の中心であるL~S玉で見ると両区に差はなかった。 

5) 小笠原における果樹・花きの新品種の作出

(1) オガサワラオレンジの生育特性の把握

開始年度:

  平成12年度

担当者:

  原島浩一

目的:

  小笠原の有望系統と他のオレンジの生育特性を比較する。

摘要:

  オガサワラオレンジ有望系統2種,登録されているオガサワラオレンジ,バレンシアオレンジ,フクハラオレンジについて新梢の発生を調査した。供試樹は3年生。[1]新梢の発生程度は,ほとんどの品種で2月中旬~3月上旬と6月下旬~7月上旬が大きかった。[2]オガサワラオレンジ有望系統の1つは,7月~11月まで発生し続けた(発生程度:中)。登録のあるオガサワラオレンジは,7月~9月下旬まで発生し続けた(発生程度:中)。フクハラオレンジは,8月上旬にも発生程度大きくなった。[3]生育調査後の11月末,台風の塩害により全ての株が枯死し,本試験を終了せざるを得ない状況となった。

(2) セイロンベンケイを利用した新しい切り花の作出

セイロンベンケイの系統選抜

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  櫻井文隆・松本剛

目的:

  小笠原独自の花き特産品の育成を目的として,セイロンベンケイを利用した新しい切り花の作出を行う。

摘要:

  切り花の育成においては、省力的に露地栽培ができ,セイロンベンケイに似たボリュ-ムのある花色の鮮やかで,花茎が切り花として十分な長さになり花持ちの良いものを目標とした。5月14日に,セイロンベンケイ20株及びセイロンベンケイとKalanchoe属園芸種との交配系統80株、Kalanchoe属園芸種4種(各20株)を露地に定植した。[1]開花は,早いもので11月中旬だったが,多くは1月上旬でも開花に至らなかった。[2]1月~2月に開花したものの中から,花茎90cm前後で花色の良い4個体を選抜した。

6) 小笠原農業活性化を目指した施設栽培試験

(1) 特産物の生産性向上と経営的評価

鉄骨ハウスにおける年末出荷スイカ栽培の検討

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  原島浩一

目的:

  鉄骨ハウスにおける年末・年始出荷スイカの作付けを検討する。

摘要:

  供試品種は天竜2号,紅大,縞王マックスKE。は種日9/1。定植日10/4。ベッド幅200cm,株間100cm。2本仕立て。[1]果重は,どれも約4000gで差がみられなかった。[2]糖度(Brix%)は,11.2~11.8で大きな差はみられなかった。[3]収穫日は,天竜2号・紅大・縞王マックスKEがそれぞれ12/17前後・12/19前後・12/19前後だった。[4]収穫期間は紅大が長く(16日間) ,次いで縞王マックスKE(12日間) ,天竜2号(8日間)の順だった。なお,縞王マックスKEは収穫期終期に集中して収穫され,天竜2号は収穫期が短かった。[5]今回の作付けでは,12月中旬の収穫であり,年末出荷に適していることがわかった。[6]今回は,経営的評価ができなかった。

(3) 土壌管理技術と改良対策

小笠原の施設土壌管理

開始年度:

  平成12年度

担当者:

  松本 剛

目的:

  土壌の化学性を把握し,土壌分析に基づく施肥を行うことで,施設土壌の管理方法の基礎資料を得る。

摘要:

  [1]施設栽培開始前(2000年)の土壌は,造成・客土等のためpHが4.9,交換性石灰が300mg/100g,可給態リン酸が20mg/100gといったように各値が低く,改善が必要な状況であった。毎年土壌分析を行いその結果の基づき各種資材や肥料の施用を行い,パッションフルーツやトマト,ズッキーニ等の栽培をした。[2]2002年7月末の栽培終了時には,交換性石灰が426mg/100g,可給態リン酸が32mg/100gと,栽培開始前に比べて改善された。ただし,ECが0.43mS/cmと跡地土壌にしてはやや高かったため,pHは5.0と低い状態であった。

(4) 高所得型作付け体系の開発

1.パッションフル-ツとズッキ-ニ,オクラ、スイカの同時栽培における収益性の検討

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  櫻井文隆・原島浩一

目的:

  パッションフル-ツと野菜を同時に栽培し,収益性の高い栽培体系の選定を行うため,オクラ,スイカ,ズッキ-ニの栽培を検討した。

摘要:

  7.4m×9mの区画内に長さ7mの畝を作り,オクラ(八丈オクラ)は畝幅120cm、株間70cmの2条植え,スイカ(天竜2号)は畝幅150cm,株間150cmの1条植え,ズッキ-ニ(ブラックトスカ-)は畝幅180cm,株間100cmの2条千鳥植えとした。また,パッションフル-ツ(台農1号)は平棚栽培とし1株を定植した。野菜が9月18日,パッションフル-ツは10月15日に定植し,野菜は1月29日に栽培をうち切った。[1]オクラは収益性が低く,スイカは商品性のある収穫物が得られなかった。[2]ズッキ-ニは、うどんこ病,つる枯病ならびにアブラムシ類が多発し,防除労力が多かったがハウス1棟244㎡当たりの粗収入は409,883円(市場出荷)~717,520円(島内販売)と収益性は高かった。

2.パッションフルーツと野菜の同時栽培

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  原島浩一,菊池正人*(*営農研修所)

目的:

  効率的な施設利用方法開発のため,パッションフルーツと3種類の野菜(トマト、メロン、ズッキーニ)の同時栽培を行い、収量等について検討を行う。

摘要:

  処理区は,パッションフルーツ+トマト(トマト区),パッションフルーツ+メロン(メロン区),パッションフルーツ+ズッキーニ(ズッキーニ区)とした。[1]トマト収穫期は12月中旬から1月下旬で,収穫後期に収量が増加した。[2]メロン収穫期は12月中旬から1月中旬で,トマトよりも早く終了し,12月下旬に収量が最大になったものの,地表が茎葉に覆われ歩きづらく,パッションフルーツの作業性が良くなかった。[3]ズッキーニは生育不良などのため調査できなかった。[4]パッションフルーツの収量は,各野菜のどれも同程度だった。

(5) 経営モデルの確立と技術普及

パッションと野菜の同時栽培の検討

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  原島浩一,菊池正人*(*営農研修所)

目的:

  効果的な施設利用方法開発のため,パッションと野菜の同時栽培の経営面における検討を行う。

摘要:

  処理区は,パッションフルーツ+トマト(トマト区),パッションフルーツ+メロン(メロン区),パッションフルーツ+ズッキーニ(ズッキーニ区)。[1]1棟あたり収量と島内販売金額は,トマトでは758.8kg,474,250±18,970円,メロンが294.8kg,206,360±29,480円,ズッキーニは生育不良などで収穫できなかった。パッションフルーツは358kg,715,237円だった。[2]パッションフルーツと野菜の同時栽培では,トマトとの組み合わせで1棟あたり販売金額が多く,1,189,487±18,970円となった。

7) 小笠原諸島固有種ムニンツツジの増殖・育成及び遺伝資源の保存

(1) ムニンツツジの植栽技術の確立

育苗方法の検討(育苗用土のpHの検討)

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  松本 剛

目的:

  ツツジは一般的に低pHの土壌を好むとされている。そこで,ムニンツツジの育苗用土の最適pHを把握する。

摘要:

  用土には赤色土を用い牛糞堆肥混合したものに,炭カルを各量混合してpHを5.4~6.9まで設定し,ムニンツツジを鉢上げして栽培した。また,pHが7.0の赤色土でも炭カルは加えずに,同様に堆肥と混合したもので鉢上げして栽培した。[1]pH6.6以上の区から樹高の伸びが停滞し,ムニンツツジの生育への影響が現れた。[2]6.0までの区では1.0cmを超えるものが多いことに対し,6.6以上では1.0cm以下のものが多く,6.5が境界となった。[3]pHが7.0の赤色土では葉が黄化し,用土として不適であった。[4]ムニンツツジを育苗・栽培する際の用土は,pH6.5が上限であり,6.0程度以下のものを用いることが望ましい。

(2) ムニンツツジの植栽技術の確立

植栽時の土壌pF値の把握

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  松本 剛

目的:

  ムニンツツジは保護増殖のために,増殖苗を自生地などに植裁しているが,夏を越して生育する割合は低い。ムニンツツジに適した植裁後の管理方法を把握するための土壌pF値について検討した。

摘要:

  土壌値pFを,1.8,2.2,2.6の3区設定し,2002年5月12日に各区10株を露地に定植した。設定した値を超えた時点で適宜灌水するようにした。[1]土壌pF値毎の生存株数は,1.8区は全ての株が夏を越して生育をしたが,2.2と2.6の両区場合は2割が枯死した。[2]2.2と2.6の両区で大きな生育差がなかったのは,降雨によりpFが2.6に達したことが少なかったためと思われる。[3]樹高の伸長においては,1.8区が最も良好であった。[3]土壌pF値を1.8程度に保つことにより,ムニンツツジの夏越し率を向上させることが可能である。

(3) モデル植栽株の追跡調査及び遺伝子資源としての保存

ムニンツツジの遺伝子資源としての保存

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  松本 剛

目的:

  ムニンツツジ(Rhododendron boninense Nakai)は小笠原父島固有種であるが,絶滅の危機に瀕している。遺伝子資源を保存のために小笠原亜熱帯農業センター内に植栽・管理を行う。

摘要:

  [1]1988年頃に小笠原亜熱帯農業センター展示園内の黒色遮光ネットで覆われた構造物の下(遮光率約60%、高さ約4m)に定植された1株は,生育は順調で,毎年開花・結実が見られている。[2]2000年11月に上記と同じ場所に,農業センターで育成した株100株ほどを定植した。また,2001年5月に小笠原亜熱帯農業センター展示園に40株ほどを定植した。[3]2002年度末現在,8割ほどの株が順調に生育している。

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