農業センター

平成15年度試験研究成果概要

平成15年度試験研究成果概要

1) パッションフルーツ・マンゴー・トマト・シカクマメの高品質・省力栽培技術の開発

(1) パッションフルーツ電照栽培における果実品質向上

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  原島浩一・吉田滋実

目的:

  電照栽培で生産された果実は, 普通栽培のものに比べ甘みが少なく酸味が強い。そこで,収穫果の糖度向上と酸度低下のため, 日中の加温と補光の検討を行った。

摘要:

  試験1:加温試験 [1]加温を行った処理区(加温区=ヒーター設定28℃,加温時間7:00~17:00)の日中平均気温は27.7℃, 糖度(Brix%)は18.6%, 酸度(摘定値)2.1。対照区は,それぞれ23.9℃, 15.9%, 2.6だった。試験2:補光, 加温, 補光+加温試験 [2]補光のみ行った場合(補光区=400W高圧ナトリウムランプ使用,照度約4000Lx)の果実糖度は15.4%で対照区の15.3%とは差がなかった。[3]補光と加温を行った場合(補光+加温区)の糖度は,17.0%で対照区よりも高い傾向がみられた。また, 補光区および補光+加温区の糖度は, 対照区のものに比べばらつきが小さかった。[4]果実酸度は対照区で3.0, 補光区で2.7, 補光+加温区で2.5だった。[5]果実糖度の向上には補光処理の効果は判然としなかったが, 加温処理は有効であることがわかった。また, 果実酸度については, 加温, 補光処理ともに減少する傾向がみられた。

(2) パッションフルーツの省力栽培技術の開発

仕立て方の違いによる人工受粉等作業性検討

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  原島浩一・吉田滋実

目的:

  通常行われている平棚仕立ては, 作業の疲労が激しい。そこで, T字仕立て, 傘仕立て, 生垣仕立て, V字仕立てならびに平棚仕立てにおいて, 人工受粉と花がら除去作業性等を比較検討した。

摘要:

  [1]人工受粉作業では, 疲れやすい姿勢でいる作業時間は, T字区, 傘区, 生垣区, V字区,平棚区の順に多かった。[2]花がら除去作業で疲れやすい作業時間は, 傘区, 生垣区, V字区, T字区,平棚区の順に多かった。 また,傘区の疲れやすい作業時間のうち肩と腰に大きな負担を強いる姿勢が1/3を占めた。[3]2つの作業時間の合計は, 生垣区, V字区, T字区, 傘区, 平棚区の順に多くなり, T字区とV字区は同程度だった。[4]収量はV字区が最も多く, 生垣区, T字区, 傘区, 平棚区と続いた。なお,生垣区は変形果の割合が特に多かった。[5]以上のことから, 生垣区, V字区, T字区, 傘区, 平棚区の順に疲れにくかったが, 収量と果実品質を考慮すると, V字区とT字区が実用的と考えられた。

(3) マンゴーの隔年結果抑制技術の開発

1.根域制限資材の選定

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  吉田滋実・渋谷圭助

目的:

  マンゴーには,多く実が着いた翌年には収穫が少なくなる性質がある。生産を安定させるため,このような性質を抑制する技術として根域制限栽培の有効性を検討する。

摘要:

  平成13年にポリエステル不織布,パルプ不織布,及び根の伸張を抑え細根の発生を促すため表面に無機銅剤を塗ったレイヨン系不織布の計3種類の根域制限資材を用いて定植した樹について,生長,及び根の分布を調査した。 [1]根域制限資材の樹の生長への影響について見ると,樹高,新梢の太さともにパルプ資材を用いた樹が他に比べ劣っていた。[2]花穂の発生率をみると,パルプ資材が86%と最も高かった。[3]根の分布についてみると,ポリエステル資材,及びレイヨン資材では1樹あたり約10本貫通していたが,パルプ資材では貫通した根がほとんどなかった。

2.根域制限処理の樹形と開花,及び収穫への影響

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  吉田滋実・原島浩一

目的:

  マンゴーには,多く実が着いた翌年には収穫が少なくなる性質がある。生産を安定させるため,このような性質を抑制する技術として根域制限栽培の有効性を検討する。

摘要:

  平成10年に根域制限を施して定植した樹について,処理5年後の樹形,開花及び収穫を調査した。[1]樹の大きさを見ると,根域制限区の枝はりは対照区の約90%,高さは約80%だった。[2]花芽が発生した枝の割合は,対照区が15%,根域制限区は93%であった。[3]収穫は,対照区では全体の約80%が7月下旬から8月中下旬に,根域制限区では約75%が7月中下旬に見られた。

(4) シカクマメの周年栽培技術の開発

1.潅水管理がシカクマメの着莢におよぼす影響

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  小野 剛

目的:

  シカクマメは着莢量が不安定で収量が減少する時期がみられる。そこで土壌水分に着目し,潅水管理の違いがシカクマメの収量におよぼす影響を潅水開始点のpF値を基に調査した。

摘要:

  pFメーターは深さ20cmに設置,pF値がそれぞれ2.0および2.7を示した時点で潅水した。畝幅90cm,株間100cmの2条植え。キュウリネットを用いた直立ネット仕立て,1区6株,2反復。4月10日定植。施肥量は10aあたり化成肥料でN,P2O5,K2Oとも各10kg,牛糞堆肥2tとした。[1]5月中旬から収穫開始。6月中旬に収穫のピークが訪れた後,7月には収穫がほぼ無くなり,8月上~中旬に2度目のピークが訪れた。[2]6月中旬のピークでは両試験区ともほぼ同じ収量であったが,それ以外はpF2.0区で高い収量が得られた。[3]以上より,土壌水分量が高いと,多くの収量が得られることが判明した。

2.Lasiodiplodia theobromaeによるシカクマメ褐色腐敗病(仮称)の発生

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  小野 剛・栄森弘己*・大林隆司*・竹内 純*2(*病害虫防除所・*2環境部)

目的:

  出荷中のシカクマメの若莢が褐色に腐敗する病害が多発した。そこで,本病の原因を究明し,防除対策の基礎資料とする。

摘要:

  [1]2001年6月に出荷後のシカクマメの莢に初発生した。初期症状は,褐色の小斑点を生じ,急速に拡大・融合し,軟化腐敗した。病斑上の子座内には,黒色の分生子殻が散生あるいは群生していた。なお,本圃での発生はこれまで未確認である。[2]腐敗莢からは同様な糸状菌が高率に分離され,分離源への接種により原病徴を再現した。接種菌が再分離。病原菌の分生子は,はじめ無色,単胞,楕円形から広楕円形,平均24.5×13.2μm,のちに褐色,2胞,平均23.0×12.5μm,表面全体に縦溝がみられる。生育温度は15℃から40℃,最適生育温度30℃。[3]以上により,本病の病原菌をLasiodiplodia theobromae (Pat.) Griff. & Maubl. と同定。病名を褐色腐敗病と提案した。(日本植物病理学会平成16年度大会発表)

3.冷蔵処理による褐色腐敗病の発病抑制の検討

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  小野 剛

目的:

  本病の対策としては冷蔵保存が有効と考えられる。しかし,シカクマメは冷蔵すると低温障害が生じる。そこで低温障害が起きず,病害の発生も抑制できる温度および期間を検討した。

摘要:

  処理温度は5℃,10℃,15℃,室温(平均28℃)の4区を設定。1区当たり3袋(若莢10本/袋,ボードンフィルムで包装)。各処理温度下で,10日間低温障害の有無を調査した。また,室温下に戻し,低温障害の発生を調査した。約4×104個/mlに調整した病原菌胞子懸濁液を作成し,健全莢に噴霧,風乾させたものを包装。それぞれ10℃,15℃,室温下に静置,10日間発病の有無を観察した。同様に,10℃,15℃に5日間静置した後室温下に戻し,発病調査を実施した。また,対照区として蒸留水噴霧区を設けた。[1]低温障害が生じず発病を抑制できる冷蔵条件は,10℃では7日間,15℃では3日間が限度で,室温に戻すと1~2日で発病することが判明した。

2) 小笠原の気候を活かした新たな作目の導入と商品化

(1) ホワイトサポテ品種導入と果実特性の把握

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  丸田里江

目的:

  秋期に収穫が期待される熱帯果樹ホワイトサポテについて生育及び果実特性を把握し,新規導入における基礎資料とする。

摘要:

  品種特性を把握するため,品種特性を把握するため,'クシオ','マクディール','バーノン'の3品種(6年生苗を平成14年11月末に定植)について,定植1年目の樹高,樹幅等を調査した。仕立て方は主枝3本の開心形仕立てとした。[1]4~6月は'クシオ'の生育が最もよく,6月末で樹高約185cm(4月からの肥大率で約270%)に達した。[2]7~9月にかけて'クシオ'と'マクディール'は,同じ様に生育し,9月末で樹高が約285cmに達した。[3]花粉樹として利用が期待される'マクディール'は,他の2品種と比べ直立性が高くなかった。[4]9月末の台風16号被害により,主幹,主枝,側枝が折損したため,生育状況を見ながら仕立て直す予定である。

(2) シマオオタニワタリの特性調査

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  松本 剛

目的:

  切り葉として有望な小笠原自生植物であるシマオオタニワタリの施肥量および定植後の生育状況と収量に与える影響を検討した。

摘要:

  N,P2O5,K2Oの各成分で,10a当たり0kg (無施用),2.5kg,5kg,10kgの4区を設定し, 3ヶ月おきにIB化成で各量を施用した。半日陰にあるパイプハウスに黒60%遮光ネットを張り,2002年2月14日に定植した。2003年8月より11月まで,80cm以上に達し十分な堅さになった葉を収穫し,枚数,葉長,葉幅,胞子のうの状態を調査した。[1]10kg区では奇形葉がやや多くなるものの,収穫枚数が最も多く,平均葉長も92cmとなり5kgや2.5kgと比べて5cm程大きかった。[2]小笠原での定植から収穫開始までの施肥量は,IB化成で3ヶ月おきに行った場合,各成分で10kg/10a/3ヶ月程度と考えられた。[3]フラワーオブジェ等の切り葉用として出荷を考えると80cm以上必要となるので,定植から収穫開始まで1年半ほど必要であった。

3) 島内流通農産物・島外出荷向け農産物の安定生産

(1) 食用ホオズキの生産技術の開発

1.潅水量および施肥量が食用ホウズキの収量に及ぼす影響の検討

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  櫻井文隆

目的:

  小笠原における冬期特産物としての食用ホウズキの上物果収量向上ため,土壌水分及び施肥量と上物収量との関係を検討した。

摘要:

  [1]全収穫物に対する上物率は,pF2.0潅水開始-追肥量5.0kg/10a区(以下同様)が24.3%で最も高かった。2.7-2.5区,2.7-5.0区は上物果数および上物率とも低かった。[2]糖度は,2.7-2.5区,2.7-5.0区がやや低い傾向であった。[3]着色開始果に対する追熟果の割合は,2.0-2.5区,2.0-5.0区,2.7-2.5区,2.7-5.0区の順に高かった。[4]追熟果の糖度は特に低い傾向は見られなかった。以上から,[5]土壌の乾燥と多施肥では上物収量が低下した。pF 2.0に達した時に潅水を行い,窒素・リン酸・カリ各成分で5.0kg/10aの追肥を行った区が総合的に優れていた。

(2) 丸莢オクラの安定生産技術の開発 

1.播種時期の検討

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  松本剛・櫻井文隆

目的:

  長期栽培による増収を検討するため,播種,定植時期,栽培期間と収量性等を調査した。

摘要:

  '八丈オクラ'を月毎に播種し,収量の推移を調査した。また,大苗の4月定植も比較した。[1]3月は 4月よりもかなり気温が低く,3月の栽培は高温を好むオクラには不向きであった。また,6月以降の定植では収量が低かった。[2]大苗4月定植は,通常の定植苗と比べる収量を上回ることは無かった。[3]4月定植は9月末の台風の影響で収量が低下したが,一定の収穫は可能であった。[4]莢のサイズは,収穫開始初期にはMサイズ,その後はLや2L,後半にはMやSサイズが多かった。[5]小笠原の露地丸莢オクラ栽培は,3月上旬播種,4月上旬定植が適期であった。台風被害の可能性や生育後期の収量低下ならびに莢の小型化を考慮しても11月末まで収穫が可能であった。

2.整枝剪定方法の検討

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  松本剛・櫻井文隆

目的:

  生産量の増大と需要の高い時期に収量を得るための剪定方法を検討する。

摘要:

  随時剪定,放任,一斉剪定,摘心の4区設定し,'八丈オクラ'を供試した。3月10日播種, 4月11日定植した。[1]最も収量の多かったのは放任区で,次が摘心区であった。放任区は8月下旬頃から収量が下がった。また,草丈が4m程になり収穫に手間がかかるようになった。実際の生産では8月中旬頃に剪定が必要と考えられた。[2]摘心区は,ピンチにより収穫開始がやや遅れたが,需要の多い8月上旬に増収となった。[3]剪定せず放任すると,6月中旬から8月下旬にかけて安定的に高い収量を確保できたが,枝が伸びすぎて収穫に手間がかかった。しかし,5月上旬に摘心することで,需要の大きい8月上~中旬に収量増が可能となった。

(3) パパイアの安定生産技術の開発

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  丸田里江

目的:

  パパイアの切り戻し栽培法を活用して,着果位置の抑制方法を検討し,果実の安定生産を図る。

摘要:

'  サンライズ'を供試し,切り戻し区(1本仕立て・2本仕立て,平成13年12月定植,平成14年11月に切り戻し),慣行区(平成15年5月定植)を設け,樹高,花芽位置等を調査した。調査期間は平成15年5月~10月とした。[1]切り戻し区の9月末の幹長(地表面から生長点までの高さ)は約80cm程度,慣行区は約170cm程度となった。[2]花芽の最下位発生位置は,10月上旬の切り戻し区で31~128cmであるのに対し,慣行区では平均145cmと高くなった。[3]以上により,切り戻し栽培は,慣行栽培に比べ樹高は大幅に抑制されたが,花芽の最低発生位置は若干の低位置に留まった。

(4) ズッキーニの冬期施設栽培技術の確立

1.雄花確保のための品種比較

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  小野 剛

目的:

  小笠原におけるズッキーニ栽培では,冬期に雄花が得にくいため,受粉作業に影響があることが懸念されている。そこで受粉作業に必要な雄花数を確保できる品種を検討した。

摘要:

  供試品種 :'グリーントスカ','ブラックトスカ'(サカタのタネ),'モスグリーン'(ナント種苗),'サマースカッシュ'(丸種),'ズキニー'(カネコ種苗),'ダイナー','オーラム'(タキイ種苗)。[1]雄花数は,'オーラム'が最も多かった。[2]収量は,'ブラックトスカ'が多かった。[3]'ブラックトスカ'の雄花1花に対する雌花の数を調査したところ,全生育期間を通じてこの1品種のみで人工受粉が可能であった。しかし,確実な受粉作業を行なうには雄花に余裕がない期間が存在した。[4]そこで着花数が多い'オーラム'を導入した場合,'ブラックトスカ'10株に対し'オーラム'を1株程度混植することで雄花不足を補えると考えられた。

(5) 島レモンの早期成園化技術の開発

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  丸田里江

目的:

  小笠原における島レモンの早期成園化を目指し,初期管理法について検討する。

摘要:

  島レモンにおいて,剪定・摘花,剪定,摘花,放任区を設け,定植2年目の樹高,幹周囲,樹幅を調査した。剪定処理は主枝2本の開心自然形に整枝し,随時樹冠下部の徒長枝等は除去した。[1]9月と12月に台風が接近し,暴風雨による枝葉の折損,塩害による枯死枝が多くみられ,樹体の順調な生育への妨げとなった。[2]4月からの生長率を見ると,樹高は,放任区以外では同程度に生育し,9月末で約140%となった。剪定区では4~6月と7~9月に生長したが,摘花区ではなだらかに生育した。[3]幹周囲は放任区以外で処理による差はみられなかった。[4]樹幅は剪定・摘花区が最も生長し,9月末で約270%となった。[5]以上より剪定と摘花処理を同時に行うと,定植2年目の樹の生育が早くなることが判った。

4) 環境に配慮した農業生産技術の開発

(1) 生ごみコンポストの利用技術の開発

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  松本剛・丸田里江

目的:

  平成15年度より畜産指導所において製造されている,牛ふん生ごみ混合堆肥について,性質や成分を把握し,施用方法を確立する。

摘要:

  牛ふんと生ごみの混合割合が15:1,5:1,牛ふん単独の3種の製品について,化学性等を検討した。[1]窒素含量は5:1で3.5%,15:1で3.0%,牛ふん単独で2.5%であり,生ごみの混合割合が高くなると増加した。[2]炭素率は,木質素材が使われていないため8~9%と低かった。[3]カリ含量は,生ごみの混合割合が高くなると減少傾向にあった。[4]コマツナ発芽試験の結果,堆肥単独では発芽が阻害された。[5]土壌混合割合1/4では,発芽はしたものの播種7日目の草丈は低く,生育阻害がみられた。土壌混合割合1/2,3/4では,健全な生育を示した。[6]以上より,母島の牛ふん生ごみ混合堆肥は,肥料成分の高い堆肥であることが判った。

(2) 潮風害軽減技術に関する試験

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  原島浩一・吉田滋実

目的:

  小笠原では台風や冬の季節風などの潮風対策が欠かせない。従来から利用されてきたものと有望と思われる樹種について,風害特性を検討した。

摘要:

  [1]アレカヤシ,イヌマキ,ガジュマル,シマイスノキ,シマシャリンバイ,テリハボク,テリハハマボウの中では,アレカヤシ,イヌマキ,テリハボクの耐塩性が高かった。[2]アレカヤシ,イヌマキ,テリハボクの風害耐性調査のため,根の分布調査を予定していたが,台風の影響により調査ができなくなった。[3]台風通過後,幹の傾斜角度を比較するとアレカヤシは傾斜がほとんどなく,イヌマキは樹高が低いにもかかわらず最も大きく傾いていた。[4]草本類(飼料用トウモロコシ,ソルゴー,イタリアンライグラス,緑肥用ハイピジョン)の潮風害対策への利用を検討したが,台風シーズンの7月には全て結実し,本試験の3月上旬播種の作型では全て不適と考えられた。

(3) アフリカマイマイの実用的防除技術の検討

1.アフリカマイマイの実用的防除技術の検討

開始年度:

  昭和60年度

担当者:

  吉田滋実・櫻井文隆・小野剛・吉田正道・和田実,菊池正人・稲垣政孝

目的:

  アフリカマイマイ(以下,マイマイと略記)を防除するために,14年度までの施設内試験で有効性が示された防除技術について,圃場においての効果を検討した。

摘要:

  5月に母島の圃場に1m四方の区画の周囲に規定量のメタアルデヒド粒剤を散布した慣行防除区,物理的障壁(溝)と農薬を組み合わせた溝区,障壁として銅網を取り付けた銅網区を3区画ずつ設置し,生貝と死貝の数を調査した。また,10月に,慣行防除区,障壁として防風ネットを用いたネット区,銅網区を設置して同様に試験した。[1]慣行防除区では,約半数のマイマイが区画内で死亡していた。溝区では,半数以上のマイマイが区画外で死亡していた。また,銅網区では,網に穴の開いていた区で4頭の生貝が確認された。[2]慣行防除区では15頭,ネット区では1頭,銅網区では0頭のマイマイの侵入があった。

2.カフェイン水溶液のアフリカマイマイに対する食害防止効果の検討

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  小野 剛

目的:

  カフェイン水溶液,コーヒー溶液および紅茶抽出液がアフリカマイマイ(以下,マイマイ)に対して忌避効果があることが室内実験において確認された。本試験は,これらカフェイン含有液噴霧処理による植物苗の食害程度を調査した。

摘要:

  試験1;展着剤含有カフェイン0.5%および0.1%水溶液,展着剤,蒸留水の4区を設け,ズッキーニ苗に噴霧した後,風乾した。2日間絶食させたマイマイを放飼し,苗の被害指数,被害株率,マイマイの死亡個体数を5日間毎日調査した。[1]カフェイン水溶液区は,展着剤区および蒸留水区より被害指数が低かったが,全区全株で食害がみられた。試験2;コーヒー溶液,紅茶抽出液,カフェイン0.5%水溶液および蒸留水を,前述同様に処理した。[2]全ての苗で被害がみられ,被害指数も高かった。[3]マイマイの死亡,麻痺個体は観察できなかった。[4]以上により,本手法による食害防止効果は低く,実用性は低いと考えられた。

(4) トマトの鉄骨ハウス栽培におけるマメハモグリバエ防除技術の確立

1.紫外線除去フィルムのマメハモグリバエ防除効果とトマトの生育におよぼす影響の把握

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  櫻井文隆

目的:

  天井部を紫外線除去フィルム,サイドに1㎜目合いの防虫ネットで被覆したパイプハウスを用いて,トマト栽培におけるマメハモグリバエの防除法と生育及び収量を 明らかにし,防除法の確立を図る。

摘要:

  [1]UVカット区では,マメハモグリバエの誘殺数が対照区の36%,トマトの被害は対照区の約70%と少なかった。[2]トマトの生育は,両区とも収穫段数は10段であったが,花房間長は対照区の方がやや長くなる傾向が見られた。[3]対照区に対してUVカット区の総収量は95%であったが,可販サイズに両区の差はなかった。また,糖度も大きな差はなかった。[4]天井被覆資材に紫外線カットPOフィルムを使い,サイドや出入り口に1㎜目合の防虫ネットを張ることで,トマトの生育,収量に大きな影響がなく,マメハモグリバエの被害を減少することができた。

(5) パッションフルーツの株元に発生する疫病の防除技術の検討

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  吉田滋実,原島浩一

目的:

  小笠原におけるパッションフルーツ栽培の障害の1つである,株の地際部に発生する疫病について,化学的防除法及び耕種的防除法を検討する。

摘要:

  15年度は化学的防除法として,マンゼブ,メタラキシル粒剤ついての検討を予定していたが,他県において同様の内容で登録拡大に向けたデータ収集を進めているという情報を得たのでこれを中止し,耕種的防除法の検討のための圃場整備を行った。

5) 小笠原農業活性化を目指した施設栽培試験

(1) 施設栽培における病害虫の発生状況の把握

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  吉田滋実

目的:

  小笠原では,平成11~13年度で29棟の鉄骨ハウスが導入されており,パッションフルーツなどの栽培が行われている。これらの施設で優良な農産物を生産するため,病害虫の発生状況の調査を行った

摘要:

  病害)[1]6月頃,パッションフルーツ1株の地際部に疫病発生が見られた。また,灰色かび病の罹病果が数個確認された。露地栽培と異なり,円斑病,及び疫病の枝葉での発生は見られなかった。ズッキーニにおいてうどんこ病が激発した。

  虫害)[2]パッションフルーツは,ほぼ全栽培期間を通じてマメハモグリバエの発生が見られた。平成16年1~2月にはアブラムシ類の発生が著しく,新芽への加害が見られた。このアブラムシの宿主の範囲はきわめて広く,マンゴーやパパイア他、多種の野菜類で寄生が確認された。3~5月にシロアリによる被害が発生した。

(2) 土壌管理技術の改善と改良対策の検討

開始年度:

  平成11年度

担当者:

  松本 剛・原島 浩一

目的:

  施設土壌の化学性を把握し,土壌分析に基づく施肥を行うことで,施設栽培における土壌管理方法の基礎資料を得る。

摘要:

  [1]施設栽培開始前(2000年)の土壌は,造成,客土等のためpHが4.9,交換性石灰が300mg/100g,可給態リン酸が20mg/100g等,各値が低く,改善が必要な状況にあった。毎年土壌分析を行い,その結果に基づき各種資材や肥料の施用を行い,パッションフルーツやトマト,ズッキーニ等の栽培をした。[2]2003年7月末の栽培終了時には,交換性石灰が419mg/100g,可給態リン酸が54mg/100gと,栽培開始前に比べて大幅に改善された。また,昨年度(2002年)7月末の作付け後には,ECが0.43mS/cmと跡地土壌にしてはやや高く,そのためpHも5.0と低い状態であったが,15年度は0.15mS/cmと跡地土壌としては適正であり pHも5.9と良好な状態に近づいた。

(3) 高所得型作付け体型の開発

パッションフルーツと野菜の同時栽培等

開始年度:

  平成13年度

担当者:

  原島浩一・櫻井文隆*・菊池正人*2(*中央農業改良普及センター・*2中央農業改良普及センター)

目的:

  効率的な施設利用方法開発のため,パッションフルーツと野菜の同時栽培等を行い,収量等について検討した。

摘要:

  小笠原で導入された鉄骨ハウス(面積250㎡)において,パッションフルーツ+野菜の同時栽培等を行い,粗収入等を比較した。[1]トマト・メロン(島内販売価格)の単作は,それぞれトマト60~65万円,メロン26~35万円。トマト,メロンと同時栽培を行ったパッションフルーツは110~116万円。パッションフルーツV字仕立栽培(単独栽培)は,146万円。[2]ズッキーニ,オクラ,スイカの粗収入(市場価格,島内価格)は,ズッキーニ41~72万円,オクラは12月以降は収益性が低く,スイカは商品性がなかった。パッションフルーツは56~115万円だった。なお,ズッキーニは,病害虫防除労力が特に多かった。

(4) 経営モデルの確立と技術普及

パッションフルーツと野菜の同時栽培等

開始年度:

  平成14年度

担当者:

  原島浩一・櫻井文隆*(*中央農業改良普及センター)

目的:

  効率的な施設利用方法開発のため,パッションフルーツと野菜の同時栽培等を行い,経営モデルの検討を行った。

摘要:

  [1]小笠原で導入された鉄骨ハウス(面積250㎡)において,パッションフルーツとトマトの同時栽培等を行った。[2]パッションフルーツ平棚同時栽培による粗収入は,トマト収穫が12段よりも7段までの場合が良かった。[3]トマトを7段まで収穫した場合,全体の粗収入は,1棟あたり175~181万円だった。[4]トマト在圃期間が長いとパッションフルーツの収量が減少した。[5]パッションフルーツは2月には茎葉が繁茂するため,トマト栽培を1月中に終わらせることが望ましかった。[6]トマトの他にメロン,ズッキーニ,オクラ,スイカとパッションフルーツの同時平棚栽培およびパッションフルーツV字仕立て栽培を比較したが,粗収入はトマトとの同時栽培が多かった。

6) 小笠原諸島固有種等遺伝資源の保存と展示

(1) ムニンツツジの遺伝資源としての保存と展示

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  松本剛

目的:

  小笠原父島固有種のムニンツツジ(Rhododendron boninense Nakai)は絶滅の危機に瀕している。遺伝子資源を保存のために亜熱帯農業センター内に植裁,管理を行い,生育状況を把握する。

摘要:

  [1]1988年頃に展示園内の黒色遮光ネットで覆われた構造物の下(遮光率約60%,高さ約4m)に定植された1株は,生育が順調で毎年開花,結実が見られた。[2]2000年11月に上記と同じ場所に定植した13株(平均樹高22.0cm)は,すべて生存しており平均樹高37.1cmに達した。2003年5月には,これらのうちの3株に着花が見られ,12月は1株に結実が見られた。[3]2001年12月1日に展示園内の半日陰に定植した50株(平均樹高10.3cm)のうち40株が生存しており,2003年12月には平均樹高33.5cmに達した。

(2) 固有種等の保存,展示

開始年度:

  平成15年度

担当者:

  松本剛

目的:

  小笠原には,ムニンツツジ(Rhododendron boninense Nakai)など,絶滅危惧の固有種が存在する。また,亜熱帯農業センターには,多くの熱帯,亜熱帯性の園芸植物が導入されている。これらの植物を遺伝子資源やエコツーリズムの観光資源として管理,保存ならびに展示活用するため,植物目録を整備し,ラベルを作成する。

摘要:

  [1]亜熱帯農業センターで保有している538種類(種,品種,系統等)の植物に,和名,品種,系統名,学名,科名,分布,説明,用途等の概要を市販ソフト(Microsoft Access 2000)を用いてデーターベースを作成した。[2]植物毎の各項目と,エリア別の植栽植物名を関連付けし,エリア毎の植栽植物名とその概要を表示できるようにした。[3]データーベースから,野外展示用の植物ラベルを作成できるように設定した。なお,本年度は約200枚のラベルの設置を行った。

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