昭和11年、12年の商店街大売出し~web版公文書館の書庫から

商業組合法と商店街商業組合

昭和7年(1932)9月5日商業組合法が公布され、10月1日に施行されました。これにより東京府下で相次いで商業組合が結成されていきます。その多くは、例えば「東京神田酒類商業組合」のような、業種別・地域別の商業組合でしたが、町の商店街を単位とした商業組合も組織されました。

昭和13年3月現在、東京府商店街商業組合連盟会には下表の16組合が加わっています。

表1 東京府商店街商業組合連盟会加盟組合
NO.組合名事務所所在地組合員数創立年月日
1東京人形町通商店街商業組合日本橋区人形町2-37年
2東京巣鴨地蔵通商店街商業組合豊島区巣鴨2-6236
3東京北沢通商店街商業組合世田谷区北沢3-99913012.2.12
4東京緑町通商店街商業組合本所区緑町2-214312.2.12
5東京武蔵小山商店街商業組合荏原区小山町12217412.3.25
6東京麻布十番商店街商業組合麻布区宮下町615312.3.25
7東京佐竹通商店街商業組合下谷区竹町12150
8東京王子豊島通商店街商業組合王子区豊島町357
9東京石原通商店街商業組合本所区石原町2-222912.6.21
10東京東十条商店街商業組合王子区上十条6382
11東京浅草いろは通商店街商業組合浅草区田中町2-6128
12東京新橋仲通商業組合芝区新橋町6-2-4105
13堤方町商業組合大森区堤方町5757
14五日市町商業組合五日市町五日市54146
15国分寺町商業組合国分寺町国分寺36790
16東京八丁堀商店街商業組合京橋区西八丁堀1-5
(?印は不明を示す)

商店街商業組合の大売出し

新橋仲通商店街 ポスター新橋仲通商店街 ポスター

これらの商店街商業組合はさまざまな方法で「大売出し」「共同売出し」をおこないました。東京都公文書館が所蔵する商業組合関係書類(東京府文書)によれば、各組合が単独でおこなった売出しは昭和11年、12年に集中しています。売出し期間の日付の早い順に整理すると表2、表3のようになります。


表2 昭和11年の売出し
No.組合名名称期間 特等,1等景品 その他
堤方町商業組合デー宣伝売出し10.1~10.21割引サービス券(50銭,1円毎)
新橋仲通満四周年記念組合宣伝大売出し10.1~10.3加盟店での割引又は景品提供
人形町通組合結成記念共同売出し12.1~12.8明治座観劇御招待(2000名)
国分寺町第一回共同売出しデー12.14~12.16
12.26~12.29
三重桐箪笥又は洋服ダンス,重茶タンス又は重ネズミイラズ
(注)組合名は、「東京」の冠字や「商店街商業組合」を省いた略称です。
表3 昭和12年の売出し
No.組合名名称期間特等,1等景品 その他
1北沢通商業組合結成記念売出し3.25~3.29潮干狩御招待(谷津海岸200名)
2麻布十番組合結成記念売出し3.27~4.5平塚海岸ドライブ・地曳網御招待
3佐竹通商業組合結成記念大売出し4.29~5.5湘南ドライブと地曳網御招待
4武蔵小山組合結成記念売出し5.1~5.5箱根十国峠・熱海ドライブ御招待
5緑町通組合結成記念売出し5.1~5.10村山山口貯水池・奥多摩ドライブ
6五日市町招待売出し6.20~6.30江ノ島・鎌倉遊覧ドライブ御招待
7石原通組合結成売出し6.28~7.15江ノ島・鎌倉ドライブ御招待
8緑町通中元福引売出し6.30~7.15江ノ島清遊御招待(松本楼昼食)
9人形町通中元共同売出し7.1~7.8洋服ダンス,冷蔵庫,国際劇場他
10北沢通中元売出し7.1~7.14鹿島神宮参詣・水郷廻り御招待
11麻布十番中元共同売出し7.1~7.15商品券(20円,5円,1円…10銭)
12巣鴨地蔵通組合結成記念中元売出し7.1~7.15洋服タンス,蓄音器,片袖テーブル
13佐竹通中元福引売出し7.1~7.15国際劇場御招待1等席1,000名
14王子豊島通組合結成記念共同売出し7.1~7.15保田海岸御遊覧(100名)他
15五日市町中元福引売出し7.5~7.13特等・タンス~6等計6,000本
16堤方町商業組合デー共同売出し10.1~10.2映画御招待(ニュース映画・他)
17麻布十番秋季共同売出し10.10~10.17松茸1籠,栗1籠,葡萄1箱他
18佐竹通戦勝祈願大売出し11.1~11.10鹿島・香取両神宮参拝御招待
19北沢通歳末共同売出し11.28~12.3010円相当,5円相当(品名不明)
20人形町通歳末共同売出し12.1~12.2850円愛国公債,伊勢神宮切符他
21巣鴨地蔵通歳末売出し12.10~12.28桐ダンス,洋服ダンス,ベビーダンス,他
22石原通歳末共同売出し12.10~12.30商品券(不明)他
23緑町通歳末共同売出し12.10~12.31商品券(5円,1円,50銭)他
24浅草いろは通結成記念歳暮福引売出し12.13~12.30愛国公債50円,三重桐箪笥他
25国分寺町歳末共同売出し12.14~12.16
12.25~12.28
1等~7等(不明)
26五日市町歳末共同売出し12.15~12.301等・タンス~7等
27麻布十番歳末共同売出し12.15~12.31商品券(20円,5円,1円…10銭)
28東十条組合結成歳末売出し12.15~12.31王子万歳館新春興行御招待他
29王子豊島通歳末共同売出し12.15~12.3120円勧業債権,商品券(3円…)
(注)組合名は、「東京」の冠字や「商店街商業組合」を省いた略称です。

「売出し」の名称と期間

「売出し」実施件数は11年が4件、12年は29件です。その名称は①商業組合法や組合結成に因むもの、②季節売出し、③中元、④歳末があります。季節や中元・歳末売出しは現在でも馴染み深いセールです。北沢通商店街商業組合(以下「商店街商業組合」を略します)のように1か月に及ぶものもありました。

国分寺町の歳末売出しは11年、12年とも2回に分けて行なっていました。同組合が府に提出した書類によれば、「客も各商品を一時に購入でき、景品も福引きなので非常に喜び、市日のように考えて近在より集まる」とその効果を強調しています。

五日市町は12年6月30日まで「招待売出し」を行ない、7月5日から「中元売出し」に入っています。両方の日数を合わせると20日間になり夏季売出しとしては異例の長さと言えそうです。また同組合が提出した書類に1年間の売出し計画が載っていますが、上記「売出し」のほかに、「納涼催売出し(割引・余興)」、「定期特売デー(月3日)」、「祭典準備売出し(9月1週間)」、「七五三売出し(1週間)」、「商業組合記念(10月)」、「新年売出し(成田山招待)」、「春季売出し(2週間)」と多種多様な売出しが計画されていました。このような売出しは他の商店街でも行われていたはずですが、資料としては残っていません。

1等景品 旅行・観劇・桐タンス

緑町通商店街福引券 緑町通商店街福引券

福引の景品を見てみましょう。春夏の目玉は行楽地への観光旅行御招待で、11件ありました。旅行先には有名観光地、なかでも鎌倉・江ノ島・湘南・箱根方面が多く選ばれています。

緑町通の中元福引売出し(表3、No.8)の景品は江ノ島鎌倉遊覧御招待でした。電車を利用して遊覧し、みんなで江ノ島・松本楼で昼食を楽しんだあと、帰りの乗車券をもらったら自由解散です。当り籤の「江ノ島御招待券」「お食事券」「土産券」と「お子様食事券」が残っています。招待券の裏に「御気軽な服装にて水着御持参が結構と存じます」などの注意書きがあります。北沢通(表3、No.1,10)と王子豊島通(表3、No.14)、佐竹通(表3、No.18)も電車利用でした。


浅草いろは通商店街 ポスター浅草いろは通商店街 ポスター

バス旅行も多くありました。武蔵小山(表3、No.4)では、180人が6台のバスで箱根・熱海を回っています。別の商店街では、130人が13台のバスでドライブをしました。景品費用の中に「清酒4斗4升8合」の領収書があります。賑やかなバス旅行だったにちがいありません。幾台ものバスが商店街旗を翻しながら、行楽地を回っていく楽しそうな様子が目に浮んできます。

歳末になると、愛国国債や勧業債権、商品券といった金券が目立つようになります。当時の世相を反映しているのでしょうか。タンスや冷蔵庫、観劇御招待といった景品は季節を通して人気のあった品々のようでした。

麻布十番の秋季売出し(表3、No.17)が用意した松茸・栗・葡萄などは季節感に溢れていて、現在でも話題になる景品かもしれません。また、人形町通商店街では売出しとは銘打っていませんが、12年4月5日~20日まで「桜まつり」を行なっていて、その時の写真やポスターが残っています。

宣伝と飾り付け チンドン屋にDM・飛行機ビラも

佐竹通商店街ポスター佐竹通商店街ポスター

宣伝と商店街の飾り付けは、どの商店街も力を入れています。

ポスターを張り出す、ビラやマッチを配る、チンドン屋を繰り出すことはどこの商店街もやっていました。また、新聞広告やアドバルーン(気球)を利用する商店街も多くありました。なかには特別郵便広告(現在のDM)を送ったり、武蔵小山のように飛行機からビラを撒く商店街(表3、No.4)もありました。佐竹通では中元福引売出し(表3、No.13)で団扇型に切り抜いたビラを作りました。柄の部分に「下谷佐竹通商店街商業組合」と印刷されています。斬新なデザインは人目を引いたことでしょう。


人形町通商店街福引所人形町通商店街福引所

装飾では店頭に幟旗を立てる、アーチ門(街門)を設置する、紅白幕を巡らすほか、組合で半纏を揃えたりスズラン灯を飾り付ける、花火を打ち上げる商店街も多くありました。

当時珍しい高声器(拡声器)を設置しているところもありました。売出し期間中に余興を催す商店街もあります。人形町通では盆栽陳列会や余興大会を開き、王子豊島通でも余興大会を催しています。

景品の資料はあまり残っていませんが、装飾や飾り付けの資料は比較的多く残っています。ポスターと装飾街灯の原画・ネオン看板の写真などを見ていると、現在もそのまま使うことができるのではないかと思ってしまうほどです。その中のいくつかを画像で紹介しましょう。

商店街売り出しポスターなど(別ウィンドウで開きます)

中小商工業者共同施設助成規程と「売出し」

東京府は昭和10年7月4日に「中小商工業者共同施設助成規程」を制定しました。中小商工業の改良発展を図るため、商業組合・工業組合の「共同施設」(組合事業)を対象に、最大でその経費の半額を助成する制度です。

商店街商業組合は商店街の売出しを「共同施設」と考えて、東京府に助成を申請し、府もまたこれを適当と認めて助成金を交付しました。

この制度を利用したい組合は、まず府知事宛に「助成金を必要とする事由書」「効果に関する説明書」などの書類を添えて、「助成金交付申請書」を提出します。そして共同施設が完了した後、それを証する書類(多くは収支報告書と領収書綴り)を添えた報告書を提出します。東京府は申請書と報告書などを調べて適正な共同施設であると判断した後、査定をして助成金を交付する仕組みでした。

大変な手間と正確さを求められる制度ですが、そのお蔭で、商店街商業組合の書類が残されることになりました。ここに画像として紹介した写真・ビラ・ポスターなどは、その時の申請書類や報告書に添付されていたものです。

「売出し」の助成金

東京府は「売出し」経費中の宣伝費、印刷費、装飾費、景品場費の4費目を助成対象とし、合計額の4割を目安として助成金として交付しましたが、計画立案費、景品費や雑費などは対象外としています。経費の中で景品費の占める割合が高いので、全経費に占める助成金の比率は1割から2割となります。

「売出し」以外に助成を受けている共同施設は、①商店街の美化・整備・装飾事業、②倉庫・事務所建設・運送道具購入、③組合専任職員の給与補給金で、ネオン看板やスズラン街灯の設置、電話や自転車・トラックなどの購入がこれに含まれます。こちらは、経費のほぼ5割が助成の対象となっています。

公文書館が所蔵する商店街商業組合の資料

商業組合に関する書類綴りは、昭和9~18年のものが47冊残っていますが、そのうち商店街商業組合に関する資料を含むものは15冊です。しかし、「売出し」に関する資料は、昭和11、12年のものに集中していて、残念ながら昭和13年以降のものは残っていません。

戦時下における統制経済の進展と共に、配給制度が強化され贅沢品の販売が規制されるなどして、こうした商店街による共同売出しも次第に廃止に追い込まれていったようです。昭和14年6月11日の読売新聞夕刊は、「最後の景品売出 小売商へ情けの通牒」と題して、警視庁のコメントとして、「十円のものに対して一円という景品付は廃止させるが小額のものに対しては不問」「チンドンヤなどを使用するのは認めないが質素なものは許そう」という通牒が出たと報じ、「今後中元、年末年始の売出しは全面的に廃止される方針なのでこれが最後の景品付売出しとなるわけだ」と報道しています。