史料の解読と読み下し例~猫、大八車に牽かれる

(出典:「日記言上之控」高野家文書  請求番号:CL―155)

【史料】

猫、大八車に牽かれる_解読 猫、大八車に牽かれる_解読

解読文

戌九月八日午刻
一通三丁目代地五兵衛申上候私店弥兵衛
 と申菓(「子」脱ヵ)屋仕候者之猫内より走出候所へ
 黒虎毛之男猫欠込候而代八車牽通り
 右之猫牽殺候間車引三人共ニ留置
 遠江守様御番所江申上三御帳ニ付御検
 使申請候
    御検使 上田市郎右衛門殿
        高坂十郎右衛門殿
 右口書相済今暮六ツ時御番所江罷出
 御僉義之上車引三人共ニ牢舎被仰
 付候此旨三御番所へ御届申上候猫死骸
 之義者箱ニ入候而念ヲ入埋可申候旨
 被仰付候
    右弥兵衛居店路次通り方へ埋申候則名主
    五人与立合見分仕候
 車引共所付
 呉服町   久五郎店徳兵衛出居衆  権三郎
       善五郎店九右衛門出居衆 弥五兵衛
       久五郎店与兵衛出居衆  長介

読み下し文

戌(宝永三年)九月八日午刻(正午)
一、通三丁目代地五兵衛申し上げ候。私店弥兵衛
 と申す菓(「子」脱ヵ)屋仕り候者の猫、内より走り出で候所へ
 黒虎毛の男猫欠け込み候て、代八車牽き通り
 右の猫牽き殺し候間、車引三人共に留め置き
 遠江守様御番所え申し上げ、三御帳に付け、御検
 使申し請け候。
    御検使 上田市郎右衛門殿
        高坂十郎右衛門殿
 右口書相済み、今暮六つ時御番所え罷り出で
 御僉義の上、車引三人共に牢舎仰せ
 付けられ候。此旨三御番所へ御届け申し上げ候。猫死骸
 の義は箱に入れ候て、念を入れ埋め申すべく候旨
 仰せ付けられ候。
    右弥兵衛居店路次通り方へ埋め申し候。則ち名主・
    五人与立ち合い見分仕り候。
 車引共所付け
 呉服町   久五郎店徳兵衛出居衆  権三郎
       善五郎店九右衛門出居衆 弥五兵衛
       久五郎店与兵衛出居衆  長介

語句説明

  • 遠江守(とおとうみのかみ)
    中町奉行の丹羽長守のこと。一五〇〇石の旗本。元禄一五年(一七〇二)閏八月に長崎奉行より転任し、正徳四年(一七一四)正月に辞して寄合に列する。(『寛政重修諸家譜』第十一)
  • 三御帳(さんおんちょう)
    各町奉行所に備えられた「言上御帳」のこと。中町奉行所が未設置の時期には「両御帳」と記されていることからも、中町奉行所を加えた三奉行所ということを反映して「三御帳」と称されたと考えられる。(吉原健一郎「十七世紀の江戸町方史料(1)―『日記言上之控』(元禄十三年)―」『日本常民文化紀要』第十四号)
  • 三御番所(さんごばんしょ)
    北・中・南という三つの町奉行所の総称。「番所」とは町奉行所のことで、当時は北・中・南という三つの町奉行所が存在しており、総じて「三番所」と称した。理由は明確でないが、元禄一五年(一七〇二)新たに呉服橋内の南側に中町奉行所が設置され、享保四年(一七一九)に廃止されるまで三奉行体制がとられた。(『江戸学事典』)
  • 五人与(ごにんぐみ)
    五人組のこと。
  • 出居衆(でいしゅう)
    当史料における「出居衆」とは同居人のこと。例えば「久五郎店徳兵衛出居衆」の「権三郎」とは、久五郎という家主(家守)が管理する店(賃貸用の建物または部屋)を借りている徳兵衛と同居の権三郎、という意味である。一般には、自分自身では店を借りることができないまま都市に滞留している日雇い稼ぎの者である。

解釈

今回の事件は、通三丁目(現・中央区日本橋三丁目)代地の五兵衛からの訴えです。五兵衛が貸した店で菓子屋を営んでいた弥兵衛の飼い猫が内より飛び出したところへ、黒虎毛の雄猫が駆け込み、ちょうど通りかかった大八車に牽かれてしまったという事件です。

大八車を引いていた人足三名はその場に留め置かれ、町役人らが中町奉行所へ届け出て、言上帳に記載の上、検使を受けることとなりました。検使役人として、上田市郎右衛門・高坂十郎右衛門が派遣されました。

検使役人による取調書の作成が終わり、奉行所へ出頭したのは暮六つ時(午後六時頃)になっていました。奉行所での取調べの結果、車引の三名は牢屋に入れられることとなり、その旨を各奉行所へも報告しました。

猫の死骸は、箱に入れて入念に埋めるように命じられ、名主や五人組頭が立ち合いの上、弥兵衛の店のある通りの端へ埋葬されました。

車引き人足の者たちは、呉服町の久五郎店徳兵衛方の出稼ぎ奉公人である権三郎と長介、同じく善五郎店久右衛門方の出稼ぎ奉公人である弥五兵衛でした。

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